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雑談用ブログです。 レポート等は shogi.pw (ゆるく将棋三段を目指す) で継続します。

第4期叡王戦の感想

1. 台湾 with Smells Like Teen Spirit / Nirvana
狂気のリングに上がるには自らを奮い立たせなければならない。血の匂いすら感じるその場所では衆人環境下で合法的に殴り合い、どちらかが倒れるまで戦い続けなければならない。君臨するものと登り来る者の戦いは、1年の時を経て必ずやってくる。地球上で最大8人しか許されない地位を得た者は、その立ち位置を譲るまいと、やってきた者を蹴落とさなければならない。でなければ、自らが落ち行くこととなる。それがこの世界のルールだ。

命を賭して戦うには日常とは違う相応のリズムを持たなければならない。狂気の世界の、狂気のリズムを手に流れを作る。鼓動を聞いて震える体は闘争心の表れだ。もっと加速させるんだ。もっともっと加速させて、疾風のごとく敵を切り裂く刃を磨け。

「強えぇ奴と戦いたいんだ。待ってるぜ。」実はそう思っていたんだ。そのために俺はもっと強くなる。誰が来たって負けない。
小刻みにギターのリフが鳴り響く。狂気の世界に似合う、あの奇妙な歌。

Smells Like Teen Spirit - 十代のような心の叫び

闘争心を掻き立てるには持って来いだ。27歳で自死を選んだカート・コバーン率いる Nirvana は、当時の若者を熱狂させた。怒りと危うさが折重なった楽曲は自信と恐怖を感じさせ、聞き入るというよりは心酔するという表現がしっくりくる。
With the lights out, it’s less dangerous / 灯を落とせば、危険じゃないさ
Here we are now, entertain us / ここに来たんだ、楽しませてくれよ
I feel stupid and contagious / バカげた気分は伝染るかもな
Here we are now, entertain us / 準備はできた、楽しませてくれよ

盤上は荒れ狂った。二転三転する終盤に怒号が飛び交い形勢は揺れる。指した方が良く見え、すなわち一手ごとに見ている者を惑わせた。盤の下に敷かれた赤色のカーペットは、まさに血の色を想起したのかもしれないし、あるいはその色が二人を斬り合いに誘発したのかもしれない。つばぜり合いで互いに傷つき血を流している場面が目の奥に浮かぶ。

やがて異国の地での死闘は挑戦者が制した。
再び、頭の中で Smells Like Teen Spirit がリフレインした。


2. 北海道 with I will survive / Gloria Gaynor

死の淵にいる。スルリと転げ落ちた勝ちは大きく、早くも絶体絶命の立場に追い込まれていた。先の敗戦は単なる一敗ではなく、このシリーズを流れをも作り出すような渦となりつつある。敏感に感じ取り、心模様がさざめく。
とにかく生き残る、ということに尽きる。まだ2戦目という余裕は全くない。生きるか死ぬかの瀬戸際。自分を信じる。この1年を信じる。北の果てに向かう飛行機の中で自らに言い聞かせる。ここが勝負なんだと。ベストを尽くした先には何かがある。きっと何かがある。
生存競争。強い奴だけが生き残る世界を怖いと感じるのは、俺がまだ生きているからだろ。だったら生きてる証を見せつけてやろうじゃないか。

Do you think I'd crumble / 俺が壊れてるだって?
Did you think I'd lay down and die? / もう死に体だっていうのかい?
Oh no, not I, I will survive / そんなことはないさ、俺は生き延びる
Oh, as long as I know how to love, I know I'll stay alive / 愛し続ければ、生きていけるんだよ
I've got all my life to live / 俺の命はまだ続くんだよ

北海道の大自然が人としての本能を呼び覚ます。これほどに無意識でかつ強く勝ちたいと熱望したことはあるだろうか。少し肌寒い北の大地に降り立っても、体は熱いままだった。

選ばれた戦型は横歩取り。居飛車の中でも序盤から激しい変化を含む短手数で決着が着きやすいと言われる形だ。一説によると詰みまで研究されている進行もあるという。そんな危険性を孕んだ戦型だが、将棋の戦型というのは避けようと思えばいくらでも避けられる。今回の横歩取りは双方の合意だ。将棋のおける合意は言葉では無く、盤上の指し手で表される。
やりますか?
やりましょう。
そんな対話の連続で将棋は成り立っている。横歩取りの合意は、斬り合い上等、俺の方が踏み込める(研究している)と言い合っているようなものだ。
攻めることでアイデンティティを取り戻す。振り返らない。決意を持った一手一手が盤上でズシリと音を立てる。スピード感あふれる戦型のはずが、確かに進行は十分に速いのだが、駒が非常に重く見える。読みの入った一手というのは木製の駒に重量を持たせ、見ているものをブラックホールの渦にでも放り込むかのようだ。

濃密でずっしりとした時を経て、でも将棋の平均手数よりも僅かに少ない98手で収束した。
最後はとてもとても静かだった。


3. 長崎 with Machine / Imagine Dragons

自分じゃない自分を自分の中から産み出さなければならない。人間を越えなければならない。限界を突破するための方法は何だろう?泥の沼を掻きわけるような思いを抱え、邪魔をしているのは、この感情かとも思ったりする。将棋に感情は必要ないとも言われる。盤上で一喜一憂していては冷静な判断はできない。だが、時に勇敢に踏み込まざるをえない時、拠り所は心の強さだ。マシーンのような冷静さと、勇者のような心の強さ。

I’m not a part of your machine, Not a part of your machine  / 俺はあんたの機械の一部じゃない
I’m not scared of what you’re gonna tell me / あんたが言うことなんて気にしない
No I’m not scared of The beast in the belly / 窮地に立ったって怯えやしないさ

幕末の折に時代を変えようとした志士達が集いた場所で、最も新しく創設されたタイトル戦が行われる。電王戦とそれに続く叡王戦は新旧の価値観の変遷を裏テーマにした候補地選択をしているのかもしれない。私たちは時代の目撃者だ。

AIの時代は確実に迫っている。人と人の戦いであっても、その影響は免れない。いずれ人はマシーンにのみ込まれる、あるいは人自体がマシーンとなってしまうのか。
数年前、マシーンに対してに冷たい一言を放った男が挑戦者の永瀬であるが、その永瀬が一番マシーンに近いのかもしれない。同世代から人の才能を見せつけられた永瀬は、努力に努力を重ね人を越えようとしている。その様を今一番身近で感じているチャンピオンは、もしかしたら薄気味悪くすら感じているかもしれない。冷たくて黒くて固い得体のしれない物体。そんなイメージを持ったとしても打ち砕かなければならない。武器は何がいい?切れ味の良い日本刀か、ずっしりと重いハンマーか、あるいは一撃必殺のスナイパーライフルか。

盤上は少し珍しい相土居矢倉というバランス感覚を試される戦型となった。序盤から先手の猛攻で綱渡りのような将棋を強いられ、それはまるでフェンシングの戦いのようでもあった。鋭い切っ先が鼻をかすめ、体を小刻みに動かして相手の隙を伺う神経戦だ。足元の正確なステップと同時に上体では適切なタイミングで剣を突きつけなければならない。少しでも攻撃のタイミングを間違えば、あっという間に攻守が入れ替わる。この戦いで試されるのは勇敢さだと思った。でもマシーンには勇敢という感情はあるのだろうか?いつか人間らしいAIだってでてくるかもしれない。



4. 広島 with Figure of Eight / Paul McCartney

何かが噛み合っていない。この1か月は時間の感覚がくるっている。一瞬のようでもあり、永遠を感じる事さえあった。自分の中の違和感は解消されないが、目を閉じると応援してくれている多くの顔が浮かぶ。この1年で何人の人に会っただろうか。独りじゃないと感じたし、多忙で充実な時間は自分を何ランクをも引き上げてくれた。
でも終わってしまった。
フルスイングは空を切り続けてしまった。いや、フルスイングすらできていなかったかもしれない。いったりきたりの人生か。これもまた受け入れるしかないのだけれど、ちょっとだけ時間が欲しい。もっと将棋を指していたい。もっとこの将棋を指していたい。そんな思いが出てしまったかもしれない。
最高の将棋を見せたい。
最高の将棋で魅せたい。
それは勝利という条件の下だけで言えることなのだと分かっているのだけれど。 どっちに進めばいい?どっちに光が刺している?

Is it better to love one another than to go for a walk in the dark?
無暗に突き進むより、愛のある方へ進むべきだよね?
Is it better to love than to give in to hate?
憎しむよりも、向き合うべきだよね?
We’d better take good care of each other avoid slipping back off the straight and narrow
狭くて曲がりくねった道だから、落っこちそうになっちゃってるかも
It’s better by far than getting stuck in a figure of eight
無限の思考の中で、そんなことを考えてしまうんだよね

全ての者の胸を締めつける雨が降り、今年のドラマが終わったことを印象付けた。私たちは夢を見て、酔いしれた。だけどね、そこには絶望は無いんだよ。この傷は一時の傷でしかないことを知ってる、分かってる。
今は土砂降りの雨に打たれた後かもしれない。でも、あなたの代わりに泣いてくれる人が多くいることを忘れてはいけない。あなたの悲しみは私の悲しみ、あなたの希望は私の希望。最短の交代劇。それでも心に響いて深く刻まれた。人それぞれの胸の中に。

勝者はまだ腹ペコだった。飢えているのではなく容量に達していないようだ。それは彼らしいこの舞台への惜別と嬉しさの表現なのだろう。





5. エンディング with I want you back / The Jackson 5
もし私がエンディング映像を作るとしたら、少年時代のマイケル・ジャクソンが歌うこの曲を BGMに選ぶであろう。最高にポップで、最高に切ない曲を。

Oh darlin', I was blind to let you go
そんなに早く行っちゃうなんて聞いてなかったよ
Let you go, baby
でも君の心は動いてしまった
But now since I see you in his arms
もう僕のもとにはいないのを知ってる
I want you back
取り戻すよ
Yes I do now
今から君を取り戻す

おとなしかった少年はいつしか「愛されキャラ」となり、師匠や先輩、あるいは同僚、そしてファンが目を離せない存在になった。頂点に立って強い思いを知った。私は「ヒーロー」だと思っている。ヒーローというのは勝ち続ける強い存在ではなく、誰かのために戦い続け、倒れても起き上がり、そして最後に勝つ者である。時に弱さを見せることもある。でもそんな時は必ず誰かが手を差し伸べる。時には遠くから見守り、時には直接的に声を掛けたりもする。プロ野球球団であれば、渋谷区民にとってのヤクルト・スワローズのような存在。おっと、彼は横浜出身だった。DNA ベイスターズと言い直そう。いつかきっと大きくなってまた戻ってくるだろう。その時の姿が楽しみである。

そしてこの夢は必ずしも彼のものではない。
第1期、第2期叡王戦優勝者を始め、全ての挑戦者がまたそれぞれの場所から更に高みを目指す夢でもある。それを見つめる全員の夢でもある。

I want you back!





朝四時、シアトルの外れでニコニコ生放送で最後の戦いを見守った。
(そう、アメリカでも見れるんだよ)
途中、少し寝落ちしちゃったことは沙恵先生には内緒にしておきたい。渡辺二冠は許してくれるだろう。「生理現象には勝てないし、自分の対局じゃないしね」と、合理的判断で。
その後しばらくしてシャワーを浴びて帰国の途に着いた。この文章のほとんどは飛行機の中で書いた。閉ざされた空間で私は今期の叡王戦を振り返った。特にどちらかを応援していた訳ではないのだけれども、敗者の側から想像してみた。なんか、そうしたくなったのだ。素人の戯言だと思ってあしらってください。ただ、今の気持ちを残しておきたかっただけなのです。

叡王戦 - http://www.eiou.jp/

(2019年5月 - 令和元年)

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